ワイヤーカット放電加工に必要な加工液。
その加工液の役割と特徴は何でしょうか?
この記事では、ワイヤーカット放電加工時の加工液の役割と種類。
そして、水と油の違いやそれぞれの特徴について記載させて頂きます。
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ワイヤーカット放電加工とは、微細な金属ワイヤー線に電流を流して、対象物(ワーク)に対して制御された放電を行う加工の事です。
この放電によって熱が発生し、材料が溶解し、所定の形状へと切り出されていきます。
その後、加工液を使用して冷却し、加工によるくずを取り除き、電極と加工物の間の絶縁状態を回復させていきます。
ワイヤーカット放電加工においては、加工液として「水」「油」が活用されています。
これらの加工液が果たす役割やその重要性についてご説明いたします。
加工液を使用することで、迅速に絶縁状態を回復させつつ、安定した加工を行うことが可能です。
加工液によって溜まったくずを素早く冷却・排出することで、放電ギャップの絶縁状態を回復します。
迅速な絶縁状態の回復により、次の段階への移行がスムーズとなり、加工効率を低下させることなく安定した加工を実現するため、加工液は不可欠な存在となっております。
加工液は、加工中の温度を安定させることができ、熱による伸縮を防ぐ役割を果たします。
金属は熱を加えると伸び、冷やすと縮む性質があります。
精密な寸法公差を要求される精密加工の場合、この僅かな変形が原因で公差範囲外になることがあります。
そのため、加工時には温度を安定させて作業を行うことが望まれます。
加工物を加工液に浸し作業することで、加工物を冷やし、放電時の熱から影響を保護することができます。
加工中に発生する放電により、ワイヤ線は高温に曝され、負荷を受けます。
そのため、放電ギャップ内で発生した加工くずが取り除かれないと、加工が不安定になり、ワイヤ線が断線する可能性が出てきます。
しかし、加工液中に浸すことで、冷却作用や加工くずの排除によりワイヤ線の断線を防止する役割を果たしてくれます。
また、加工液処理の強さを適切に調整することで、断線を防ぎ、連続加工が実現します。
ワイヤーカットでは、用途に応じてイオン交換樹脂を通した脱イオン水、放電加工用の油の2種類の加工液を使い分けます。
ワイヤーカット放電加工においては、加工液として「水」「油」が活用されています。
これらの加工液が果たす役割やその重要性についてご説明いたします。
通常の水道水には導電性を持つイオンが含まれるため、絶縁性が低く、放電加工には適していません。そのため、通常はイオンを取り除いた脱イオン水が使用されます。
メリット
①油よりも加工速度が速い
水の方が油よりも粘性が低く、くずの排出性が優れています。
排出性が良いと、安定して放電加工を連続して行うことができ、作業スピードの向上につながります。
また、比熱が大きいため、油よりも冷却効果が優れています。それにより、冷却時間が短縮され、作業スピードの向上にもつながります。
②維持費が低いため、油よりも費用対効果が高い
水を使用する場合は毎月イオン交換樹脂を購入しますが、油を使用する場合は加工液を全交換しない限り(補充はしますが)消耗品費用は発生しません。ただし、油の価格が非常に高額です。
総合的に比較すると、維持費がかからないため水の方が費用対効果が高く、油よりも作業が安価に行えます。
デメリット
①加工精度が低い
これは、放電ギャップによるものです。
水と油の絶縁抵抗値を考えると、放電ギャップは水の方が大きくなります。
そのため、加工が不安定になり、油を使うと加工精度が低下します。
美しい表面仕上げを望むなら、油を加工液として使うことを検討する価値があります。
②錆が発生しやすい
水の中でワイヤーカットをする為、どうしても錆が発生しやすくなってしまいます。
最近の水を使ったワイヤー放電加工機は、加工液が水であっても腐食されづらいですが、加工時間が長引くとどうしても腐食が生じてしまいます。
放電加工用の油には、高い引火点を持つ特別な油が使用されます。
ワイヤー放電加工機用や形彫り放電加工用など、様々な種類の油加工液があります。
メリット
①加工精度が水よりも優れています。
加工精度・仕上げ面精度の質が水より向上します。
これは、油の方が放電ギャップが小さく安定しているためであり、繰り返し加工する際においても優れているからです。
形状精度も表面性状においても、より高精度な加工を必要とする際は油を選択した方が良いと言えます。
また、微細形状の加工においても油の方が加工液として適しています。
②錆の心配がない
加工液が油であれば、加工物の電気的な腐食や錆を心配する必要がありません。
デメリット
①加工速度が水よりも遅い
ワイヤーカットの加工速度に関しては、油を使う場合は水よりも約3倍の加工時間がかかってしまいます。
そのため、水で粗加工、油で仕上げという使い分けも検討するのもよろしいかと思います。
②維持費がかかる為、加工にコストがかかる
水の場合は、イオン交換樹脂を定期的に購入・交換する必要があり、油は維持管理のために消耗品は特に不要ですが、加工液自体の価格は水より高額の為、水よりも加工時にコストがかかります。
それぞれにはメリットとデメリットがありますので、どちらを選べばよいかわからなくなります。
通常は、水を使用してワイヤーカットを行い、ギアや歯車などの微細形状かつ高い精度が求められる場合には、油を使用してワイヤーカットを行う。という使い分けが行われています。
これは、多くの精密部品加工業者によって採用されている方法です。
他の選択基準としては、
・大型の金型プレートは水で加工し、金型部品は油で加工します。
・鉄系材料は水で加工し、超硬材料は腐食を防ぐために油で加工します。
元々、大きな電流を流すことができない極細のワイヤー線を使用する際には、加工速度に違いはなく、必要な粗さに応じて、油の方が水よりも短時間で加工が完了する場合もあります。
さらに、近年では、油を使用した場合でも加工速度が向上しており、電源やリニアモーターによる駆動軸などの技術の進歩により、水を使用しても高い精度で加工が可能なケースが増えています。
どちらの加工液を使用する際にも、水質管理が極めて重要であると言えます。
ワイヤーカットで使用する加工液は、一度使用した後に液体を再利用する仕組みです。
しかしながら、ワイヤーカット作業で生じる加工くずが効果的に取り除かれないと、加工液内に次第にたまり、結果として加工精度が低下することになります。
そのため、加工液内に蓄積する加工くずを適切に処理し、水質管理を行うことが求められます。
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